公的機関をかたる特殊詐欺と偽装書類の脅威
警視庁を名乗る男による1500万円詐取事件
2025年9月22日、東広島市に住む50代の会社役員の男性が、警察官を装った特殊詐欺の被害に遭い、現金1500万円をだまし取られました。被害は、男性が広島市中区の会社事務所にいる際に、携帯電話にかかってきた一本の電話から始まりました。発信元の番号は「+」で始まり、末尾が「0110」と表示されていました。
電話口に出た男は、自身を警視庁の警察官だと名乗り、男性名義のキャッシュカードが特殊詐欺の捜査で押収されていると告げました。男は、男性が容疑者として捜査線上にいるため警視庁に来るよう要求しましたが、男性が身に覚えがないとして拒否すると、今度は「特殊詐欺に使われた札の番号を把握している」として、指定口座への現金の振り込みを要求しました。
男は、疑いが晴れれば全額返金すると約束したといいます。その後、被害男性にはLINEを通じて、「守秘義務命令」や「凍結捜査差押許可状」という、男性の名前と住所が記載された書類の画像が送付されました。男性はこれらの偽の書類を信用し、指示された口座に現金1500万円を振り込み、だまし取られてしまいました。
検察官をかたるさらなる指示と事件の発覚
さらに、この男性は、後に検察官を名乗る別の人物から、逃亡のおそれがあるとして定時報告するように伝えられていたことが判明しています。男性は身に覚えのない容疑であったため、警察に相談した結果、今回の詐欺被害が発覚しました。
SNSを悪用した巨額投資詐欺の波
著名人名乗りの誘導で1億5500万円の超高額被害
広島市に住む70代の男性は、YouTubeの動画をきっかけに、経済評論家を名乗る人物から総額1億5500万円をだまし取られる被害に遭いました。
男性が実在する経済評論家の動画をYouTubeで視聴していたところ、投資サイトのURLが表示されました。そのURLを開くと、経済評論家を名乗るLINEアカウントが表示されたため、男性は友だち登録してしまいました。
その後、評論家や女性アシスタントを名乗る人物から投資を勧められ、指示された通りに海外製の証券口座のようなアプリをインストールし、インターネットバンキングを通じて7月半ばまでに16回にわたり入金しました。アプリ上では投資で利益が出ているかのような画面が表示されていたため、男性は信用してしまったということです。
アプリ上の見せかけの資産増加と出金時の追加要求
福山市に住む60代の会社員の男性も、SNS型投資詐欺により、合計で約6550万円の被害に遭いました。
2025年5月ごろ、男性は日本人女性を名乗る人物から身に覚えのないLINEメッセージを受け取り、これが投資話のやりとりの始まりとなりました。男性は指示に従い投資関連アプリをダウンロードし、そのアプリのアカウントを自身のLINEに登録し、グループに参加しました。
指示通りに投資を進めると、アプリ画面上では資産が増えているように見え、男性は信用し、6月から9月にかけて、現金4020万円と暗号資産約2530万円分を、計10回にわたり指定口座などに送金しました。
しかし、男性がアプリ上で増えたはずの資産を引き出そうとしたところ、「さらに現金が必要だ」と要求されたため、不審に思い警察に相談し、被害が発覚しました。アプリで表示されていた資産の増加は、すべて見せかけだったということです。
YouTube広告経由の投資詐欺で70代女性も被害に
三原市に住む70代の女性も、YouTubeに表示された広告をきっかけに、投資アドバイザーを騙る人物らに580万円をだまし取られました。
女性は2025年6月、YouTubeの広告から知り合った人物にLINEのグループトークに誘われました。グループは実在する投資会社を名乗り、女性は講師やアドバイザーをかたる人物と連絡を取り、指定された口座に現金を振り込みました。この詐欺は、金融機関からの情報提供によって発覚しました。
古銭売買を口実としたロマンス詐欺と受け子逮捕
SNSで恋愛感情を抱かせ、結婚をほのめかしながら投資話を持ちかける、いわゆる「ロマンス詐欺」の手口で、広島市に住む81歳の会社役員の男性が約8200万円をだまし取られる事件が発生しました。
ベトナム国籍の容疑者(34歳)は他の人物と共謀し、去年11月、「女性投資家」を名乗って男性とLINEでやり取りを重ね、結婚をほのめかしながら「古銭が高く売れる」という虚偽の投資話を持ちかけました。現金は、古銭売買のオークション手数料や偽の売上金を受け取るための手数料という名目で、合計8257万円がだまし取られました。
容疑者は、偽のオークションスタッフまたは受け子役として、男性が経営する会社の事務所を2度訪れ、現金を受け取ったとみられています。この男性は、今回の被害以前にも、2025年1月にSNSで知り合った女性におよそ2億円をだまし取られたとして警察に届け出ており、警察はこれらの事件の関連についても捜査を進めています。逮捕された容疑者は、警察の調べに対し黙秘しています。
詐欺の実行役「受け子」の摘発事例
休暇中の海上自衛官を逮捕、弁護士を装い200万円を詐取
福山市の82歳の無職の女性から現金200万円をだまし取ったとして、海上自衛官(27歳)が詐欺の疑いで逮捕されました。容疑者は海上自衛隊呉基地を拠点とする護衛艦「さざなみ」の海士長で、事件当時は休暇中でした。
23日から24日にかけ、女性のもとに息子になりすました人物から「至急現金200万円が必要で、代わりの法律事務所の者に現金を渡してほしい」という電話が数回ありました。容疑者は法律事務所の関係者または弁護士を装って女性宅を訪れ、現金を受け取りました。
女性が現金を渡した後、実際の息子に電話をして詐欺だと気づき警察に届け出ました。警察は、翌25日に再び女性に接触してきた容疑者に対して「だまされたふり作戦」を実行し、女性の自宅周辺で張り込み、JR福山駅周辺で職務質問の末、逮捕に至りました。
容疑者は、弁護士のふりをしてお金を受け取ったことは認めているということです。護衛艦「さざなみ」の艦長は、隊員が逮捕された事実を重く受け止め、警察の捜査に協力し、厳正かつ適切に対応する旨を述べています。
「確定申告の税金支払い」を口実に、だまされたふり作戦で未遂犯逮捕
呉市に住む90歳の女性から現金100万円をだまし取ろうとしたとして、受け子役とみられる東広島市に住む19歳の無職の男が、現行犯逮捕されました。
男は他の人物と共謀し、9月25日から26日にかけて、女性の息子になりすまして電話をかけ、「確定申告に基づいて税金を支払う必要があり、現金が至急必要だ」と嘘をつきました。男は「現金を受け取りに行く代わりの者に100万円を渡してほしい」と女性に依頼しましたが、不審に思った女性は26日朝に警察に相談しました。
警察は女性と協力して「だまされたふり作戦」を実施し、現金を受け取るために自宅近くに来た男を待ち伏せ、逮捕しました。男は現金を受け取ろうとしたことは認めていますが、だまし取る意図はなかったと一部否認しています。
特殊詐欺を防ぐための重要ポイント
広島県警は、特殊詐欺やSNSを利用した投資詐欺の被害が相次いでいることを受け、改めて注意を呼びかけています。
- 警察官や公的機関の接触について:警察官が捜査対象となっていることを電話で連絡したり、現金の振り込みを要求したりすることは決してありません。
- 国際電話への警戒:「+○○」で始まり、末尾が「0111」で終わる国際電話からの着信は、詐欺の可能性が高いとされています。心当たりのない番号からの電話には十分注意が必要です。
- 投資話の危険性:「必ず儲かる」「投資」といった甘い言葉には、特に注意が必要です。
- 連絡先の確認:連絡先がSNSのみの相手を信用して投資をしないようにしてください。
- 振込先のチェック:振込先が個人口座である場合は、詐欺の可能性を強く疑う必要があります。
- 秘密厳守の指示が出た場合:犯人が「誰にも言わないように」と指示してきたとしても、ためらわずに警察や身近な人に相談することが重要です。
私の見解
これらの事件から浮かび上がる重要な点は以下です。
- 詐欺の巧妙化・多様化
- 警察や検察官を装う手口、YouTube広告やSNSを悪用した投資詐欺、ロマンス詐欺など、手口が多岐にわたる。
- 偽の書類やアプリ上の資産表示で心理的圧力や信用を作り出す巧妙さが目立つ。
- 高齢者や資産家のターゲット化
- 50代〜90代の被害者が多く、判断力や警戒心の弱い層を狙っている。
- 高額被害が短期間で発生している点も深刻。
- 組織犯罪の可能性と実行役「受け子」の存在
- 個人の犯行に見えても、複数人で共謀し役割分担しているケースが多い。
- 受け子の摘発例からも、単なる個人の犯罪ではなく、計画的組織犯罪であることが分かる。
- 防止策の重要性
- 公的機関を名乗る電話やSNS投資の誘導は、決して個人情報や現金を渡さないことが最重要。
- 振込先の確認や、怪しい指示にはためらわず相談することが被害防止につながる。
総じて、心理的操作・社会的信用の悪用・組織的計画が組み合わさった高度な犯罪であり、個人の判断だけで防ぐのは難しく、社会全体での注意喚起と教育が求められる事案です。
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