神石高原町に「神石のたまご産婦人科」開院:分娩台のないお産と地域創生企業の挑戦

メモ

待望の産科施設が開設!合併以来初の快挙

神石高原町に新たな希望

広島県神石高原町(人口約8000人、高齢化率50%以上)に、待望の産婦人科医院「神石のたまご産婦人科」が2025年9月2日に開業しました。この開院は、2004年に4町村が合併して以降、町内にお産を扱う施設がなかったため、地域にとって初の快挙となります。これまで、町内の妊婦の多くは車で福山市内まで通院する必要があり、陣痛が来てからの移動がつらかったという町民の声もありました。

神奈川から移住した著名な医師

院長を務めるのは、神奈川県で有名なクリニックの元院長だった日下剛医師(58歳)です。日下医師は、2025年3月に妻の藤原亜季さん(47歳)や子どもたちと共に横浜市から神石高原町に移住し、9月の開業に向けて準備を進めてきました。日下医師は、妊婦や母子が出産を通じて幸せを感じられる施設にしたいと意欲を示しています。また、この地であれば、理想のお産を実現できるだけでなく、地域全体で子どもを育むことができるとも語っています。

まちづくり会社MSERRNTの挑戦とビジョン

地域再生を担うMSERRNTの役割

この新しい産婦人科医院と助産院の開設は、町外から医師や助産師を誘致したまちおこし会社「株式会社MSERRNT(マサーント)」によって実現しました。MSERRNTは2022年に神石高原町出身の丹下大氏と工氏の兄弟によって設立され、「神石高原から、日本を変える」というビジョンを掲げ、まちづくり事業を推進しています。彼らは、補助金や助成金に頼らない自立した地域社会の確立を目指しており、活動の軸として教育、医療、雇用を重視しています。特に人口増加を究極の目標とし、住民を増やすところから物事を考えようとしています。

地域発展に多角的に貢献

MSERRNTは、医療分野の支援だけでなく、地域創生に多岐にわたるプロジェクトを展開しています。彼らは、子供から大人まで楽しめる自然体験施設「星のこやまランド」の建設や、年間出荷頭数が限られる神石牛の肥育に取り組み、出荷量を増やそうとしています。さらに、奈良県に拠点を置くZ世代の企業「やるかやらんか」と協定を結び、町内の築60年の古民家をコワーキングスペースや宿泊施設にリノベーションすることで、Z世代の力を借りて町の魅力を発信し、にぎわいを創出しようとしています。また、公式戦開催が可能なサッカー・フットサルコートを併設した「MSERRNTフィールド」の命名権も取得しており、スポーツを通じて地域との関係人口増加を目指しています。

施設の概要と医療体制

産婦人科医院は、町の旧交流施設を改修した場所に開院しました。この施設には助産院「神石のたまご助産院」も併設され、10月1日から診察を開始。両施設が併設されることで、妊娠から出産まで切れ目のないサポートが可能となります。院内には診察室のほか、出産のための個室が3室整備されています。助産師は6人体制で、うち2人は千葉県と広島市から移住しました。

分娩台を排した「オキシトシンバース」

母子に優しい自然なお産を追求

日下院長が提供するのは、「母子に優しいお産」であり、医療介入をできる限り抑えた自然な分娩です。従来の産婦人科で定番とされてきた分娩台は設けられておらず、妊婦は個室や和室、あるいは畳の上に敷いた布団の上でリラックスして出産することができます。

日下医師は、人の骨格は10万年前から変わっておらず、本来の出産は横になっていればほとんどが成功すると考えています。分娩台では妊婦が緊張し、アドレナリンが分泌されて余計な力みが必要になってしまうという持論を持っています。

幸福感を高める「オキシトシンバース」

日下医師が提唱するのは、自然分娩の中でも世界最先端の考えを取り入れた「オキシトシンバース」です。これは、陣痛促進剤や帝王切開などの医療介入を控え、子宮収縮ホルモンであるオキシトシンが最大限に分泌される環境を整え、腹圧をかけずに子宮の収縮のみで出産する方法です。この方法により、赤ちゃんへの負担が減り、母親の身体の傷(会陰部の傷など)を防ぐ効果も期待されます。日下医師の妻も、病院の分娩台での出産と比較して、布団での出産では力まずに済み、お産の幸福感を実感し、産後の幸福感が高まり「また産みたい」という気持ちになりやすいと指摘しています。

地域医療と定住促進への期待

過疎化が進む町への貢献

神石高原町は人口減少と高齢化が深刻な課題であり、行政側も子育て支援の充実や特産品のブランド化(赤と黒のプロジェクト:トマト、ぶどう、神石牛)に取り組んできました。今回の産科開業は、行政の取り組みだけでは難しい町の発展において、民間企業(MSERRNT)との連携が生んだ大きな成果です。

町当局は、この産婦人科の開院が地域医療の向上に加え、若い世代の定住促進につながることを期待しています。日下院長も、出産を通じて地域社会の良い絆の原点を築き、地域の発展に貢献したいと考えています。

今後の展望と広域的な課題

「神石のたまご産婦人科」では、今後、里帰り出産など町外からの出産受け入れにも対応し、外来診療も行っていく方針です。将来的には、小児科の開設も視野に入れ、妊娠から育児まで一貫したサポート体制の構築を目指しています。

なお、広島県内では出産できる医療機関がない「空白地帯」が23市町中12市町にのぼっており、産科医院や助産院の経営の厳しさ、医師の高齢化などにより、分娩施設は今後も減少する可能性があります。このような状況下で、神石高原町の新たな試みは、限られた医療資源を効率よく運用し、地域医療に貢献するモデルケースとして注目されています。

私の見解

産科が町に戻ったことは大きな前進です。通院の負担や分娩時の移動リスクが減り、妊産婦と家族の安心感が高まります。地域の医療基盤強化として歓迎すべきです。

MSERRNTの民間主導による地域再生の試みは挑戦的で魅力があります。医療と雇用、観光を結ぶ多角的施策は、若年層の定住促進に現実的な効果をもたらす可能性があります。

一方で持続性確保は課題です。人員配置・経営の安定化や広域的な連携が不可欠で、県や周辺医療機関との協力体制づくりを進める必要があると考えます。

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