被爆80年を機に、10年ぶりに開催された世界核被害者フォーラム
世界8カ国・地域の核被害者が広島に集結
「世界核被害者フォーラム」が、2025年10月5日から6日の2日間にわたり、広島市中区のJMSアステールプラザで開催されました。このフォーラムは、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)」など、日本とアメリカの市民団体2つが主催しました。被爆・敗戦から80年を迎える節目の年に、10年ぶりに広島での開催が実現しました。フォーラムには、アメリカやオーストラリアなど11カ国、または8カ国から、核被害者や専門家ら10人から12人が参加しました。開会に先立ち、核実験の被害者らは平和公園の原爆慰霊碑に献花を行いました。
原爆被害を超えた、世界の放射線被害の実態を報告
このフォーラムの重要な目的は、広島・長崎の原爆被害だけでなく、核実験、ウラン鉱山、核開発の過程、劣化ウラン弾、そして原発事故など、さまざまな要因による放射線被害の実態に焦点を当てることでした。参加者たちは、核兵器の原料となるウランが採掘され、労働者らが被ばくした南アフリカやコンゴ民主共和国、インド、さらにアメリカの核実験によって住民の健康被害や環境汚染が広がったマーシャル諸島など、国内外の核被災地の実態を報告しました。日本国内からも、被爆者や福島第一原発事故の被害者らが登壇しました。主催者は、広島が核被害者のネットワークを強化する「原点」になるべきであるとし、被害者同士が手を結び問題を解決する場を、戦後80年の節目に持つことが重要だと訴えました。マーシャル諸島出身の参加者は、世界中の核被災地と連帯してこの場に立てたことへの感謝を表明しています。
フォーラムで採択された「核と人類は共存できない」宣言
核被害者の権利と補償の確立を求める
2日間にわたる議論の結果、フォーラムは閉幕時に、「核と人類は共存できない」という強いメッセージを柱とした宣言を採択しました。この「2025広島・人権宣言」では、ウラン鉱山や核実験による具体的な被害を挙げ、核被害者の生きる権利を保障するための法律を世界各地で整備しなければならないと訴えました。主催者である森瀧春子氏は、闇に隠されてきた核の真実の姿をえぐり出し、「核と人類は共存できない」という被爆者の魂の叫びが人々を導くことになるだろうと開会時に述べています。
核の危機に直面する世界への警鐘
核兵器廃絶をめざすヒロシマの会の共同代表であり、世界核被害者フォーラムの事務局長を務める森瀧春子氏は、非人間的に差別され、抑圧されてきた核被害者の連帯の力で、核の連鎖反応と困難を打ち砕こうと参加者へ呼びかけました。森瀧氏は、ウクライナ戦争やガザでの戦闘など、核兵器の使用が現実的に危惧される現代の状況において、世界は未来を失う瀬戸際にあるという強い危機感を示しました。そして、若い世代に対して、世界が破滅に向かっている深刻な現状に気づき、自ら考えてその裏にある真実を見抜く力を持つこと、核戦争を止めるために一人ひとりの戦いが重要であることを強調しました。核が存在する限り被爆者は増え続け、核戦争の危機をもたらすため、「核時代に終焉を」と訴えています。
反核運動の継承と平和への継続的な発信
森瀧春子氏:親子二代にわたる平和活動
森瀧春子氏は、がんを患いながらも活動を続けており、彼女の活動は、原水爆禁止運動の先頭に立ち、「核と人類は共存できない」と訴えた父、森瀧市郎氏(第4回谷本清平和賞受賞者)の遺志を受け継ぐものです。森瀧春子氏は、1998年には核実験を強行したインドとパキスタンから若者を広島に招き、2001年にHANWAを結成しました。彼女は、放射線被ばくの視点からウラン兵器禁止活動を先導し、ノーベル平和賞を受賞したICANと連携して、核兵器禁止条約の成立に貢献した功績が評価され、2018年に第30回谷本清平和賞を受賞しました。これは、親子二代にわたる初めての受賞です。彼女は、活動の原動力は父の言葉と被爆地広島に生まれ育ったことにあるとし、人間が作り出した核兵器を人間の手でなくすために活動を続け、次世代へ思いをつないでいく考えを述べています。
キャンドルメッセージによる世界への連帯の呼びかけ
HANWAは、核兵器禁止条約の発効や、ガザ地区などでの戦闘状況に合わせて、広島の原爆ドーム前でキャンドルメッセージを発信しています。2025年1月の条約発効4年目には、フォーラムのプレイベントとして、およそ1500本のキャンドルで「核と人類は共存できない」を意味する英語のメッセージを描き、核廃絶への連帯を呼びかけました。また、2023年11月には、ニューヨークで核兵器禁止条約の第2回締約国会議が始まるのに合わせ、原爆ドーム前で約100人の参加者と共に1500本のキャンドルを灯し、「STOP! GENOCIDE NO NUKES NO WAR!」というメッセージを発信しました。このイベントの写真は声明文と共に締約国会議や国連に送付されました。2024年1月の条約発効3年の節目にも、約70人の市民が参加し、「パレスチナに平和を!核絶対反対!戦争反対!」のメッセージを1500個のキャンドルで浮かび上がらせました。これらの平和への願いは、SNSを通じて世界へライブ配信や投稿により発信されています。森瀧氏は、広島から世界へ共通の言葉でメッセージを送ることが重要だと述べています。
私の見解
被爆80年を機に、世界核被害者フォーラムが再び広島で開かれたことには大きな意義があります。広島・長崎の記憶を超え、世界中で続く核被害を共有することは、人類が核の脅威にどう立ち向かうかを再考する貴重な契機となりました。
「核と人類は共存できない」という宣言は、単なるスローガンではなく、被害者の人生と痛みから生まれた真実の言葉です。核の利用が日常の延長線上に存在する現代社会において、私たちはその言葉の意味を深く受け止める必要があります。
森瀧春子氏の活動は、親子二代にわたる平和への意志の継承そのものです。キャンドルメッセージに象徴されるように、一人の声が世界へ届く時代だからこそ、平和の灯を絶やさずに次世代へつないでいく責任が、私たち一人ひとりにあります。
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