緊急時への備えが脅かされる事態
広島県府中市で、消火用ホースの先端に取り付ける真ちゅう製の「筒先」または「ノズル」が盗まれる被害が相次いでおり、2025年9月10日、府中市土生町の新聞配達員(66)が窃盗の疑いで逮捕されました。
逮捕容疑は、5月27日未明に府中市高木町の駐車場で筒先1本(1万円相当)を盗んだというものです。
これらの筒先は、地域住民が火災発生時に初期消火を迅速に行えるよう、通常は鍵をかけずに格納箱で管理されています。府中市や町内会は、このような緊急時に不可欠な部品がなくなることに、深刻な懸念を表明しています。
高値で取引される金属、広がる被害
容疑者は警察の調べに対し、「売ってお金にするため」「金銭目的」と容疑を認めています。盗まれた真ちゅう製の筒先は、金属価格の高騰により、現在1本あたり約1万円で取引されているとみられています。
府中市内では、2025年5月から7月にかけて、同様の盗難被害が50件以上、または57箇所で確認されており、警察は容疑者がこれらの余罪にも関与している可能性も視野に入れ、捜査を進めています。新聞配達の業務中に犯行に及んだ可能性も指摘されています。
国の対策と地域社会の課題
広島県内では金属を狙った窃盗事件が近年急増しており、3年前に急増して以来高止まりの状態です。昨年は197件、今年8月末までに138件が発生しており、これは5年前と比較して2倍以上の数字です。この背景には、世界的な銅不足や「トランプ関税」などの影響による金属価格の高騰があります。
現在、銅は1キロあたり約1300円、真ちゅうは約900円で取引され、数年前の1.5倍に値上がりしています。 このような状況を受け、国は対策を進めており、2025年6月に成立した新法では、金属買い取り業者に対し、会社名や住所の届け出義務、無許可営業への罰則、顔写真付き書類による本人確認の厳格化、取引記録の3年間保存などを義務付けています。
この法律は来年6月までに施行される予定であり、相次ぐ金属盗難事件の抑止に繋がるかが注目されています。府中市では、被害を受けた筒先を比較的安価なアルミ製に交換する動きも出ています。また、福山市の河川敷でも、ステンレス製のサイクルラック2基が盗まれる被害が確認されています。
私の見解
消火用ホースの筒先盗難は、単なる「金属泥棒」事件にとどまらず、市民の安全を脅かす重大な問題です。特に、筒先がなければ初期消火ができず、火災が一気に拡大するリスクがあるため、被害の深刻度は計り知れません。
新聞配達員は業務中に犯行を繰り返した可能性があり、地域社会の信頼を揺るがし、町内会や消防団の努力を無にしかねません。
背景にあるのは、世界的な金属需要と価格高騰です。銅や真ちゅうが高値で取引される現状では、今後も金属を狙った窃盗が発生する可能性は高いといえます。国が法整備を進めている点は評価できますが、実効性を高めるためには地域レベルでの「見守り体制」や、アルミ・樹脂など代替素材への切り替えも急務でしょう。
地域防災は、ハード面の備えだけでなく、市民同士の信頼と協力に支えられています。このような事件をきっかけに、「金属価格が上がったから狙われやすい」という危機意識を共有し、防犯と防災の両立を考えることが求められています。
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