国内最古を大幅に遡る石器の世紀の発見
廿日市市冠遺跡での驚くべき発掘
広島県廿日市市吉和にある旧石器時代の遺跡、冠遺跡において、奈良文化財研究所の研究チームが去年9月に重要な発掘調査を行いました。この調査の結果、およそ4万2000年前の石器が約370点発見されたことが発表されています。これは、これまで国内で最も古いと多くの研究者によって見なされていた約3万7000年余り前の石器の年代を、約5000年も遡る大発見です。この発見は、日本列島に人類が到達した時期を検討する上で非常に貴重な史料として大きな注目を集めています。
中期旧石器時代の可能性と過去の教訓
発見された石器の大部分は、黒色安山岩という火山岩の一種で作られています。特に、先端を尖らせた「せん頭器」と呼ばれる石器が3点出土しており、その縁が削り取られてノコギリの歯のようになっている特徴は、中国大陸や朝鮮半島で発見されている4万年以上前の中期旧石器時代の石器と類似しています。
かつて2000年に発生したいわゆる遺跡発掘の「ねつ造問題」以降、後期旧石器時代より古い時代の研究は検証のため白紙の状態となっていました。そのため、今回の発見は、ねつ造問題で見直しを迫られていた時代の石器である可能性を秘めており、日本列島に中期旧石器時代の扉が開かれたと言える重要な成果だと評価されています。
研究者たちは、この発見によって日本列島の人類の歴史が5000年遡ったことに大きな衝撃を受け、今後は大陸との比較研究を進め、慎重に確実性を積み重ねていきたいと述べています。
年代の裏付けと当時の生活解明に向けた追加調査
地質学的検証による確実性の追求
石器の年代をより確実なものとするため、奈良文化財研究所の研究チームは先週から追加の発掘調査を開始しました。この追加調査は9月26日まで続けられます。
これまでに石器の年代は、出土した地層の木炭を放射性炭素で年代測定することで約4万2000年前と判断されていましたが、今回の追加調査では、地層に含まれる石英の粒を分析するなど、地質学の専門家も招き、多角的な観点から年代を検証し、裏付けとなる資料を増やしていく計画です。
研究者たちは、この遺跡は特別な特徴を持つ重要な場所であり、4万2300年前の地層が安定して積もっていることから、当時の人が確実に暮らしていたことが分かってきたと説明しています。
集落の痕跡と「一等地」としての冠遺跡
追加調査の目的は、年代の裏付けだけでなく、当時の人類の生活を知るための史料を集めることにもあります。去年見つかった石器がどこで製作され、どのように使われていたかはまだ不明であり、研究チームは今回、石器の「工房」の痕跡など、生活の場が見えてくる可能性に期待しています。
冠遺跡は旧石器時代の人類にとっての拠点だったとみられています。研究者によると、その背景には、直径2キロほどの盆地で平坦な土地が広がり、地下水が湧き出ていた可能性があり、さらに石器の材料である安山岩を容易に得られるなど、当時の人類が暮らすための条件が整った「一等地」であったことが挙げられています。
この遺跡は、日本列島に最初に到達した人類が広島にいたかもしれないことを多くの人に伝え、日本列島の人類の歴史を紐解く上で最も重要なフィールドであり、歴史がここから始まったと言える「まほろば」のような土地になるだろうと述べられています。
研究と地元活性化への期待
今回の発見は、旧石器時代の専門家の間で大きな話題となっており、ある専門家は、石器が地層の上から順に手堅く出土していることから、多くの研究者が可能性を期待していた成果が得られたのではないかと評価し、今後の旧石器時代研究の基準資料になることへの期待を示しています。
地元の住民からは、4万年以上前の生活に思いを馳せて驚きの声が上がり、冠遺跡への注目が地元の活性化につながることを望む意見が出ています。追加調査は一般公開されており、悪天候の中でも多くの見学者が訪れています。発掘された石器は、2025年9月13日から11月末まで、廿日市市の「吉和歴史民俗資料館」で展示される予定です。
冠遺跡発見・研究タイムライン
- 2000年頃
- 遺跡発掘に関する「ねつ造問題」が発生。
- 後期旧石器時代より古い時代の研究は白紙状態となり、信頼性のある検証が求められる状況に。
- 2024年9月
- 奈良文化財研究所の研究チームが広島県廿日市市吉和の冠遺跡で発掘調査を実施。
- 約4万2000年前の石器370点を発見。
- 発見された石器には「せん頭器」3点が含まれ、中国大陸や朝鮮半島で見つかる中期旧石器時代の石器と類似。
- 2024年9月以降
- 研究者は今回の発見により、日本列島の人類史が従来より約5000年遡る可能性を指摘。
- 大陸との比較研究や慎重な年代検証の必要性を強調。
- 2025年9月
- 奈良文化財研究所が追加発掘調査を開始(9月26日まで予定)。
- 石器の年代確認のため、木炭の放射性炭素年代測定や地質学的分析(石英粒子分析など)を実施。
- 生活痕跡や石器製作場所の調査も進行中。
- 遺跡の条件(平坦な土地、地下水の存在、安山岩入手可能)から、人類が生活する「一等地」と評価。
- 2025年9月13日~11月末
- 発掘された石器は、廿日市市「吉和歴史民俗資料館」で一般公開・展示予定。
- 一般公開中に多くの見学者が訪れ、地元の活性化への期待が高まる。
私の見解
冠遺跡での発見は、日本列島における人類史の「再設定」を迫る大きな成果です。従来の国内最古記録を約5000年遡る約4万2000年前の石器370点という大量出土は、単なる年代の更新ではなく、当時の生活や集落形成の実態を解明する上で極めて重要です。
注目すべきは、出土した「せん頭器」が中国大陸や朝鮮半島の中期旧石器時代の石器と類似している点で、これは当時の文化的交流や技術伝播を示唆する貴重な手がかりです。また、遺跡の立地条件(平坦な盆地、地下水、石材入手の容易さ)から、冠遺跡が人類にとって「一等地」として選ばれたことがわかり、生活の痕跡や工房跡の発掘が進めば、旧石器時代の具体的な暮らしぶりがさらに明らかになると考えます。
さらに、遺跡の一般公開や展示は学術面だけでなく、地域の文化的・観光的価値の向上にも貢献すると期待されます。過去の「ねつ造問題」により長く停滞していた中期旧石器時代の研究が、今回の成果によって新たな基準を得ることになり、国内外の研究者にとっても重要な指標と考えます。
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