被爆80年の節目に達成された「遺跡の国宝」
史跡から特別史跡へ、近代遺構として全国初の快挙
広島市の原爆ドーム(旧広島県産業奨励館)国の特別史跡に正式に指定されました。これに先立ち、同年6月20日に国の文化審議会が文部科学大臣に対し指定を答申していました。特別史跡とは、史跡の中でも特に学術上の価値が高く、日本の文化を象徴するものとして文化財保護法に基づき指定されるもので、「遺跡の国宝」に相当する位置づけです。
原爆ドームは、明治時代以降の近代の史跡としては全国で初めて特別史跡に指定された遺構となり、全国で最も新しい年代の特別史跡となります。全国で65件目の特別史跡であり、広島市内では初の指定となります。広島県内全体では、厳島(廿日市市)や廉塾ならびに菅茶山旧宅(福山市)に続いて3件目です。
原爆ドームの歴史と被爆当時の壮絶な状況
原爆ドームは、1915年(大正4年)に県物産陳列館として建設された洋館であり、ドーム部分に鉄骨を用いた煉瓦造および鉄筋コンクリート造の3階建てで、正面中央階段室は5階建ての構造でした。1933年(昭和8年)に広島県産業奨励館と改称されています。
1945年8月6日、米軍が投下した原子爆弾の爆心地からわずか約160mの至近距離で被爆しました。爆風と熱線により内部は全焼しましたが、奇跡的に倒壊を免れました。建物内にいた人々は全員即死し、約30名が犠牲になったとされていますが、正確な人数は分かっていません。
原爆ドームは、市民による保存運動を契機に1966年に市議会で永久保存が決議され、1995年に国の史跡に、翌1996年には世界文化遺産に登録されました。広島市は、これまで1967年以来5度にわたり保存整備工事を実施してきました。
惨禍を伝える「象徴的存在」としての保護強化
今回の特別史跡指定は、原爆ドームが現在もなお被爆当時の姿をよく保っており、人類史上初めて投下された原子爆弾の惨禍を示す被爆遺構の中でも象徴的な存在であることが明確になったと国に評価されたことによるものです。
特別史跡に指定されることで、史跡よりも強力な保護が図られ、保存工事の際には国から最大半額の補助を受けられるほか、毀損した際には文化庁長官の権限で復旧措置が取れるようになります。広島市は、将来の保存に向けて最大限努力する姿勢を示し、特別史跡と明記した石柱をドームそばに新設する予定です。
この指定は、核兵器の廃絶と世界の恒久平和を求めるシンボルとなっている原爆ドームが、被爆の実相を国内外に伝える大きな後押しになると期待されています。原爆資料館の元館長を務めた被爆者は、過去の歴史を反省し教訓とするためには遺跡を保存していくことが重要だと意義を強調しました。
また、被爆80年の節目での指定は喜ばしいことであり、これからも核兵器が使用された際の惨状を伝えていってほしいとの声も上がっています。さらに、広島市内の他の被爆遺跡も史跡指定を増やし、将来的に「世界遺産群」となるよう行動を起こすべきだという見解も示されています。
広島市内の貴重な文化財一覧
国指定の建造物と美術工芸品
広島市域内には、国指定、県指定、市指定を合わせて合計169件の指定文化財があります。このうち、国指定文化財は合計27件です。
国宝に指定されている建造物は不動院金堂の1件です(昭和33年2月8日指定)。重要文化財としては、建造物7件と美術工芸品10件などがあります。建造物には、不動院鐘楼、不動院楼門、國前寺本堂、國前寺庫裏のほか、広島平和記念資料館や世界平和記念聖堂(いずれも平成18年7月5日指定)、そして旧広島陸軍被服支廠倉庫施設(令和6年1月19日指定)が含まれます。
美術工芸品には、木造薬師如来坐像(大正6年8月13日指定)や、短刀2件、銅製梵鐘、色絵花卉文輪花鉢(伊万里)、紺紙金泥宝篋院陀羅尼経などが指定されています。最近では、広島頼家関係資料が令和6年8月27日に重要文化財に指定されています。
小見出し:史跡・名勝・天然記念物など
記念物としては、特別史跡に指定された原爆ドーム(旧広島県産業奨励館)広島原爆遺跡(令和6年2月21日指定)などが指定されています。名勝としては、縮景園や平和記念公園があります。
天然記念物では、オオサンショウウオが特別天然記念物に指定されています。
私の見解
原爆ドームの「特別史跡」指定は、法的・財政的な保護が強化されるだけでなく、被爆の記憶を国内外に伝えるための象徴性が改めて公的に認められた意義ある決定だと考えます。ただし、指定によって生じる観光・保存運営上の負荷や「記憶の語り方(誰の記憶をどう残すか)」については、慎重な運用設計が不可欠です。
保全を重視すると立ち入り制限や見学制限が強まる可能性がある一方、平和教育や被爆の実相を伝える機会も維持しなければなりません。保存計画には「学び」と「遺構保全」の両立を明確に盛り込むべきです。
広島市が他の被爆遺跡の指定拡充や「世界遺産群」化を目指す観点は合理的です。ただし群としての登録や管理を目指す場合、各遺跡ごとの保存状況・管理体制の整備が前提になります。
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